「袱紗(ふくさ)」という言葉を初めて聞いたのは、社会人になって2年目の春でした。大学時代の友人から結婚式の招待状が届き、浮かれていた私に、母が一言。
「ご祝儀、袱紗に包んで持っていくのよ」
「ふくさ?それって何?」
当時の私は、袱紗という存在すら知らない、マナー知らずの若者でした。そんな私が、100均の袱紗と出会い、冠婚葬祭のマナーを学び、大人として成長していく過程を、ここに記録したいと思います。
袱紗との初めての出会い
母の言葉を聞いて慌ててスマホで検索した私。袱紗とは、ご祝儀袋や香典袋を包むための布のことで、冠婚葬祭の際に使うマナーアイテムだということを初めて知りました。
「でも、袱紗ってどこで買えばいいの?呉服屋さん?デパート?高そう…」
結婚式まであと1週間。正直、ご祝儀だけでも出費が痛い中、袱紗にまでお金をかけたくない、というのが本音でした。
そんな時、母が教えてくれたのです。
「今は100均にも袱紗があるらしいわよ。ダメ元で見てきたら?」
半信半疑で近所のダイソーに行ってみると、確かにありました。冠婚葬祭コーナーに、慶事用の赤い袱紗と、弔事用の紺色の袱紗が並んでいたのです。
価格は110円。
「これで本当に大丈夫なの?」と不安に思いながらも、とりあえず慶事用の赤い袱紗を購入しました。これが、私と100均袱紗との長い付き合いの始まりでした。

初めての結婚式で使ってみた
友人の結婚式当日。ホテルの受付で、他のゲストが次々とご祝儀を差し出しているのを見て、私も緊張しながら100均で買った袱紗を取り出しました。
赤い袱紗を開いて、中に入れておいたご祝儀袋を取り出し、受付係の方に両手で差し出す。事前にネットで調べた作法通りにやってみました。
受付の方は笑顔で「ありがとうございます」と受け取ってくださいました。
その瞬間、「ああ、ちゃんとできた」とホッとしました。周りを見ると、袱紗を使わずに、バッグから直接ご祝儀袋を出している人もいましたが、袱紗を使っている人も多く、「ちゃんとマナーを守れた」という小さな達成感がありました。
そして何より、100均の袱紗でも全く問題なかったのです。見た目も安っぽくなく、むしろシンプルで上品。機能的にも十分でした。
この経験から、「100均でも、しっかりとした品物が手に入る」ということを実感しました。

突然の訃報と、準備不足の後悔
初めての結婚式で袱紗デビューを果たした私でしたが、慶事用の赤い袱紗しか持っていませんでした。「弔事用は必要になったら買えばいいや」と軽く考えていたのです。
しかし、人生は予測できないもの。
それから3ヶ月後、父方の祖母が急逝しました。突然の訃報に、家族全員が慌てふためきました。お葬式の準備、親族への連絡、喪服の用意…。
その混乱の中で、私はハッとしました。
「香典を包む袱紗がない!」
祖母の家があるのは地方で、お葬式はその地域で行われます。前日に移動しなければならず、買い物をする時間的余裕がありませんでした。慌てて母に相談すると、母が予備の弔事用袱紗を貸してくれましたが、自分の準備不足を痛感した出来事でした。
お葬式が終わって自宅に戻った翌日、私はすぐにダイソーに行き、弔事用の紺色の袱紗を購入しました。今度は同じ失敗を繰り返さないように、予備としてもう一つ、セリアでも別の袱紗を購入しました。
この経験から学んだのは、「冠婚葬祭用品は、必要になる前に準備しておくべき」ということでした。

100均袱紗の種類と選び方
その後、仕事やプライベートで冠婚葬祭に参加する機会が増えるにつれ、私は色々な100均で袱紗をチェックするようになりました。各100均によって、品揃えや特徴が違うことがわかってきました。
ダイソーの袱紗
ダイソーには、最も種類が豊富に揃っています。
慶事用(赤・ピンク・紫) – 結婚式やお祝い事用 弔事用(紺・グレー・黒) – お葬式やお悔やみ用 慶弔両用(紫) – リバーシブルで両方に使える
素材は主にポリエステルで、縫製もしっかりしています。特に紫の慶弔両用タイプは便利で、私も愛用しています。価格は110円が中心ですが、金封タイプ(袋状になっているもの)は220円の商品もあります。


セリアの袱紗
セリアの袱紗は、ダイソーに比べるとデザイン性が高い印象です。
表面に控えめな刺繍が入っているものや、無地でもより上品な質感のものが多く、「これが100均?」と思うようなクオリティです。
特に、ちりめん風の生地を使った袱紗は、触り心地も良く、見た目にも高級感があります。種類はダイソーほど多くありませんが、品質重視なら セリアがおすすめです。
キャンドゥの袱紗
キャンドゥは、シンプルで実用的な袱紗が中心です。装飾は少ないですが、その分、男性でも使いやすいデザインが多いです。
また、コンパクトサイズのものもあり、小さめのバッグにも入れやすいのが特徴です。
100均袱紗の選び方のポイント
私が実際に使ってみて感じた、選び方のポイントをまとめます。
1. 用途を明確にする
- 結婚式などの慶事が多いなら、明るい色(赤・ピンク)
- お葬式などの弔事に備えるなら、暗い色(紺・黒・グレー)
- 両方に対応したいなら、紫の慶弔両用タイプ
2. タイプを選ぶ
- 風呂敷タイプ:伝統的な四角い布。包み方を覚える必要があるが、格式が高い
- 金封タイプ:袋状になっていて、入れるだけ。初心者向けで使いやすい
- 札入れタイプ:お札を直接入れられる。カジュアルな場面向け
3. 色の意味を理解する
- 赤・ピンク・オレンジ:慶事専用(結婚式、出産祝いなど)
- 紺・グレー・黒:弔事専用(お葬式、法事など)
- 紫:慶弔両用(どちらにも使える万能色)
4. 素材と縫製をチェック 店頭で実際に手に取って、生地の質感や縫い目を確認します。100均でも、しっかりした作りのものを選べば長く使えます。
私の袱紗コレクション
現在、私が持っている袱紗は全部で5枚。すべて100均で購入したものです。
- ダイソーの赤い袱紗(金封タイプ) – 初めて買った思い出の品。結婚式用。
- ダイソーの紺色袱紗(風呂敷タイプ) – 祖母の葬儀後に購入。お葬式用。
- セリアの紫袱紗(金封タイプ) – 慶弔両用。一番使用頻度が高い。
- セリアのピンク袱紗(風呂敷タイプ) – 友人の結婚式用。華やかな席に。
- キャンドゥのグレー袱紗(金封タイプ) – 予備として会社のロッカーに常備。
これだけ揃えても、合計550円。デパートで一つ買う値段で、複数の袱紗が揃えられるのが100均の魅力です。
袱紗の正しい使い方を学ぶ
袱紗を持っているだけでは意味がありません。正しい使い方を知ることが大切です。私も最初は全く知識がなく、恥ずかしい思いをしたこともあります。
風呂敷タイプの包み方
慶事(お祝い事)の場合
- 袱紗を広げ、中央よりやや左側にご祝儀袋を置
- 左側の布を折り、ご祝儀袋の右側にかぶせる
- 上部の布を下に折る
- 下部の布を上に折る
- 最後に右側の布を左に折り、裏側に回して完成
ポイント:左から右へ包むのが慶事の作法。「右開き」になるように包みます。
弔事(お葬式など)の場合
- 袱紗を広げ、中央よりやや右側に香典袋を置く
- 右側の布を折り、香典袋の左側にかぶせる
- 下部の布を上に折る
- 上部の布を下に折る
- 最後に左側の布を右に折り、裏側に回して完成
ポイント:右から左へ包むのが弔事の作法。慶事とは逆になります。「左開き」になるように包みます。
最初、私はこの違いが覚えられず、スマホのメモに書いて保存していました。でも何度か実際に包んでいるうちに、自然と体が覚えました。
金封タイプの使い方
風呂敷タイプに比べて、金封タイプは簡単です。
- 袱紗を開く
- ご祝儀袋または香典袋を入れる
- 袱紗を閉じる
金封タイプの場合、開く方向だけ注意が必要です。
慶事:右開きになるように持つ(右側に開く部分が来るように) 弔事:左開きになるように持つ(左側に開く部分が来るように)
金封タイプは失敗が少ないので、マナーに自信がない人や、急いでいる時にはとても便利です。
渡し方のマナー
受付でご祝儀や香典を渡す際のマナーも大切です。
慶事の場合
- 受付の前で袱紗を開く
- ご祝儀袋を取り出し、袱紗は軽くたたむ
- ご祝儀袋の向きを相手に向けて、両手で差し出す
- 「本日はおめでとうございます」などと一言添える
弔事の場合
- 受付の前で袱紗を開く
- 香典袋を取り出し、袱紗は軽くたたむ
- 香典袋の向きを相手に向けて、両手で差し出す
- 「この度はご愁傷様です」「お悔やみ申し上げます」などと一言添える
私は最初、緊張のあまり、袱紗をバッグに入れたまま、ご祝儀だけ取り出して渡してしまったことがあります。後で「袱紗の意味がない…」と気づいて恥ずかしい思いをしました。それ以来、受付の少し手前で袱紗を準備するようにしています。
100均袱紗で困ったエピソード
100均の袱紗で基本的には問題ないのですが、一度だけ困ったことがありました。
それは、会社の重役の結婚式に参加した時のこと。格式の高いホテルでの結婚式で、参列者も会社の役員クラスが多く、かなり緊張していました。
受付で私の前に並んでいた部長が、高級そうな絹の袱紗からご祝儀を取り出しているのを見て、「やばい、私の100均袱紗、場違いじゃない?」と一瞬不安になりました。
でも、勇気を出して自分の番が来た時、普通に袱紗を開いてご祝儀を差し出すと、受付の方は何の違和感もなく受け取ってくださいました。
後で考えれば、受付の方は一日に何十人、何百人ものご祝儀を受け取るわけで、袱紗が100均か高級品かなんて、いちいち気にしていないんですよね。大事なのは、マナーを守ること、心を込めてお祝いすることであって、袱紗の値段ではないのだと実感しました。
ただ、この経験から学んだのは、「TPOに応じて、少し良いものを持つのもあり」ということ。その後、私は特に格式の高い場面用に、デパートで3,000円ほどの正絹の袱紗も一つ購入しました。普段は100均、特別な時は上質なもの、という使い分けをしています。
袱紗を通じて学んだ日本の文化
袱紗という小さな布を通じて、私は日本の伝統文化や「もてなしの心」について学ぶことができました。
包むという文化
日本には「包む」文化があります。贈り物を包装紙で包む、風呂敷で物を包む、そして袱紗でご祝儀や香典を包む。
これは単に汚れを防ぐという実用的な意味だけでなく、「相手への敬意」を表す行為なのだと知りました。丁寧に包まれたものには、贈る人の心が込められている。袱紗も同じです。
むき出しのご祝儀袋をポケットから出すのと、袱紗から丁寧に取り出すのとでは、受け取る側の印象が全く違います。たとえ100均の袱紗でも、「きちんとマナーを守っている」「お祝いの気持ちを大切にしている」という印象を与えることができます。
色の意味
袱紗の色にも、それぞれ意味があることを学びました。
赤やピンクは喜びや祝福を表す色。結婚式や出産祝いなど、おめでたい席に相応しい。
紺や黒、グレーは悲しみや哀悼を表す色。お葬式や法事など、悲しみの席に相応しい。
紫は高貴な色で、慶弔どちらにも使える万能色。年齢を重ねた方ほど、紫の袱紗を使う傾向があるのは、この色の格の高さゆえなのだと知りました。
色一つにも意味があり、その場に相応しい色を選ぶことで、相手への配慮を示せる。これも日本の美しい文化だと感じます。
「形」よりも「心」
袱紗について学ぶ中で、最も大切だと感じたのは、「形式を守ることも大事だが、それ以上に心が大切」ということです。
どんなに高価な袱紗を使っても、義務感だけで渡すご祝儀や香典には、心がこもっていません。逆に、100均の袱紗でも、心からの祝福や哀悼の気持ちを込めて渡せば、その気持ちは相手に伝わります。
形式やマナーは、相手への敬意を「見える形」で表すためのツール。でも、本当に大切なのは、その背後にある心なのだと、袱紗を通じて学びました。
若い世代に伝えたいこと
アラサーになった今、後輩や年下の友人から「結婚式に招待されたんだけど、何を準備すればいい?」と相談されることが増えました。
そんな時、私は必ず「袱紗を使おうね」と伝えています。
「袱紗って何?」「必要なの?」という反応も多いですが、その大切さを説明すると、みんな「知らなかった!」と驚きます。
若い世代は、マナーを知らないのではなく、「教えてもらう機会がない」だけなのだと感じます。核家族化が進み、冠婚葬祭に参加する機会も減り、親や祖父母から教わる場面が少なくなっているのでしょう。
だからこそ、私のような「ちょっと先に経験した人」が、後輩たちに教えてあげることが大切だと思っています。
「袱紗は100均で買えるよ」 「使い方は難しくないよ」 「これを使うだけで、ちゃんとした大人に見えるよ」
こう伝えると、みんな安心して、100均に袱紗を買いに行ってくれます。そして後日、「ちゃんと使えました!ありがとう!」という報告をもらうと、私も嬉しくなります。
袱紗を常備するようになった私
今では、私の生活の中で袱紗は欠かせないアイテムになりました。
自宅には、慶事用・弔事用それぞれの袱紗を常備。いつ何があっても対応できるようにしています。
会社のロッカーには、慶弔両用の紫の袱紗を常備。同僚の結婚や、思いがけない訃報にも、すぐに対応できます。
実家にも、帰省した時用に袱紗を置いています。地元の友人の結婚式や、親戚の法事など、実家にいる時に必要になることもあるからです。
車の中にも、予備の袱紗を入れています。直接式場に向かう場合など、家に取りに帰れない状況に備えてです。
これだけ揃えても、全部100均なので、合計で1,000円程度。高い保険料だとは思いません。むしろ、「いつでも対応できる」という安心感は、お金に代えられない価値があります。
