35歳の春、私は立派な工具箱を持っていました。ホームセンターで揃えた一流メーカーの工具たち。総額15万円以上。しかし、その工具箱を開けるたびに感じていたのは、喜びではなく、プレッシャーでした。「こんな高い工具を持っているのに、大したものが作れない自分」。そんな劣等感です。ダイソーの110円六角レンチセットが、その呪縛から私を解放してくれるとは、夢にも思いませんでした。これは、小さな六角レンチが私の人生を変えた、3年間の物語です。 高級工具への憧れと挫折 私がDIYに興味を持ち始めたのは、会社の先輩の影響でした。先輩は週末になると自宅で家具を作ったり、リフォームをしたりしていました。「男なら工具を使えないとな」という先輩の言葉に、妙に感化されてしまいました。 「道具から入るタイプ」。それが私の悪い癖でした。何か新しいことを始める時、まず形から入ります。ゴルフを始めた時も、最初に高級クラブセットを買いました。結果、3回打ちっぱなしに行っただけで終わりました。 DIYも同じでした。先輩に連れられてホームセンターに行き、工具コーナーで目を輝かせました。壁一面に並ぶ工具たち。電動ドリル、ノコギリ、金槌、ドライバーセット、レンチ、ペンチ、ヤスリ…。 「最初は基本的な工具を揃えるといいよ」と先輩はアドバイスしてくれました。「でも、安物はすぐダメになるから、最初からそこそこ良いものを買った方がいい」。その言葉を真に受けて、私は有名メーカーの工具を次々とカゴに入れていきました。 六角レンチもその時に買いました。ドイツ製の高級六角レンチセット。ケース付きで8,500円。店員さんが「これは一生使えますよ」と勧めてくれました。確かに、手に取ると重厚感があり、精密に作られている感じがしました。「よし、これにしよう」と迷わず購入しました。 その日、工具だけで12万円使いました。後日、作業台やら工具箱やらも買い足して、合計15万円以上の投資になりました。「これで俺もDIY男子だ」と意気込んでいました。 しかし、問題がありました。何を作ればいいのか分からないのです。先輩に相談すると、「まずは簡単な本棚から作ってみたら?」と提案されました。ホームセンターで木材を買い、設計図をダウンロードして、いざ作業開始。 結果は惨敗でした。まず、木材のカットがうまくいきません。ノコギリの使い方が分からず、切り口がガタガタです。釘を打てば木材が割れ、ネジを締めればズレる。4時間かけて、何とか形にはなりましたが、とても人に見せられるレベルではありません。 「高い工具を使っているのに、なぜこんなにうまくいかないんだ」と落ち込みました。工具が悪いのではなく、自分の腕が悪いのは分かっています。でも、高級工具を使えば何とかなると思っていた自分がいました。 それから何度か挑戦しましたが、うまくいきません。作るたびに失敗作が増えていきます。「もう無理だ。俺にはDIYの才能がない」と諦めました。高級工具たちは工具箱の中で眠り、部屋の隅に置かれたままになりました。 時々、工具箱を見るたびに罪悪感を感じました。15万円もかけた工具たち。ほとんど使っていません。「もったいないことをした」と後悔しましたが、今さらどうすることもできません。 ダイソーでの偶然の出会い それから2年が経ちました。DIYへの情熱はすっかり冷め、工具箱は物置の奥に追いやられていました。ある土曜日、近所のダイソーに日用品を買いに行きました。洗剤やらティッシュやらをカゴに入れながら店内を歩いていると、工具コーナーが目に入りました。 「100均に工具なんてあるのか」と興味本位で覗いてみました。小さなドライバー、カッター、ペンチ…。どれも小さくて、おもちゃのようです。「これじゃあ、まともな作業はできないだろうな」と思いながら見ていると、六角レンチセットを見つけました。 … 【ダイソー・セリア】100均の六角レンチが教えてくれた、DIYの本当の楽しさRead more
