料理にそれほど深い関心があったわけではない私が、100均のすり鉢と出会い、そこから食に対する考え方、さらには生活そのものへの向き合い方が変わっていきました。たった110円の調理器具が、私の日常をこれほど豊かにしてくれるとは思ってもみませんでした。今回は、100均のすり鉢との出会いから始まった私の「すりつぶす」生活について、詳しくお話ししたいと思います。 それは母の「ごまが香ばしくなるのよ」という一言から始まった 私が100均のすり鉢を初めて手にしたのは、28歳の春でした。当時、一人暮らしを始めて5年目。料理は「食べられればいい」という最低限のレベルで、コンビニ弁当とスーパーの惣菜、たまに作る簡単なパスタや炒め物で済ませていました。 ある週末、実家に帰省したときのことです。母がほうれん草のごま和えを作っていました。キッチンから「ゴリゴリゴリ」という心地よい音が聞こえてきます。何をしているのだろうと覗いてみると、母がすり鉢で白ごまをすっていました。 「市販のすりごまじゃだめなの?」と聞いた私に、母は笑顔で答えました。「自分ですったほうが香ばしくなるのよ。全然違うから」 その日の夕食で食べたごま和えは、これまで食べたどのごま和えよりも香り高く、深い味わいがしました。「こんなに違うものなのか」と驚きました。ごまの油分が出て、ほうれん草に絡みつく感じ。市販のすりごまでは絶対に出せない、挽きたての香ばしさ。 「すり鉢、欲しいな」と何気なく言うと、母は「100均にも売ってるわよ。まずはそれで試してみたら?」と教えてくれました。 翌日、東京に戻る前に近所のダイソーに立ち寄りました。調理器具コーナーに、いくつかのサイズのすり鉢が並んでいました。直径10cm程度の小さなものから、15cm程度の中サイズまで。価格はすべて110円。すりこぎも別売りで110円でした。 「本格的な陶器のすり鉢は数千円するし、使わなくなったらもったいない。でも100均なら、試してみてもいいかな」という軽い気持ちで、中サイズのすり鉢とすりこぎを購入しました。合計220円の小さな投資が、私の食生活を大きく変える第一歩になるとは、その時は思ってもいませんでした。 初めてのごますり体験 帰宅後、さっそくスーパーで白ごまを買ってきて、すり鉢を試してみることにしました。 すり鉢を洗い、水気を拭き取ってから白ごまを大さじ2杯ほど入れます。すりこぎを手に取り、母がしていたように、円を描くように、ゴリゴリとすり始めました。 最初は少しコツがつかめず、ごまが飛び散ってしまいました。力加減が分からず、強くすりすぎたり、弱すぎたりしました。でも、2〜3分続けていると、だんだんリズムが出てきました。 そして、変化が起きました。ごまの粒が細かくなり始めると同時に、キッチンに香ばしい香りが広がってきたのです。「あ、これだ」と思いました。母の言っていた「香ばしさ」です。 さらにすり続けると、ごまが半ペースト状になり、すり鉢の底に貼りつくようになってきました。油分が出てきたのです。触ってみると、指先がしっとりと湿っています。 完成したすりごまを白いお皿に取り出してみました。市販のすりごまとは明らかに色が違います。より白く、そしてしっとりとしています。匂いを嗅ぐと、鼻をくすぐる香ばしい香り。 … 【ダイソー・セリア】100均のすり鉢が教えてくれた「丁寧な暮らし」と日本の食文化Read more
