「また忘れてる…」
32歳の私は、物忘れの激しさに、日々悩まされていました。
仕事の打ち合わせで決まったことを忘れる。 友人との約束を忘れる。 買い物に行って、何を買うはずだったか忘れる。 さっき思いついたアイデアを、次の瞬間には忘れる。
スマホのメモアプリも使っています。手帳も持っています。付箋も使っています。でも、どれも中途半端。メモアプリは、いざという時に開くのが面倒。手帳は、カバンの中で探すのに時間がかかる。付箋は、どこに貼ったか分からなくなる。
「私の脳は、穴の開いたバケツみたいだ」
そう自嘲しながらも、何か良い方法はないかと模索していました。
そんな時、100均のダイソーで偶然手に取った「カードリング」。直径3センチほどの、金属製の小さなリング。本来は、単語カードを束ねたり、サンプル生地をまとめたりするための、何の変哲もない文具です。
まさか、このシンプルなアイテムが、私の「忘れっぽい」人生を一変させることになるとは、その時は思ってもいませんでした。
カードを束ね、持ち歩き、いつでも見返せる。この単純な仕組みが、私に「記憶の外部化」という新しい生き方を教えてくれたのです。

始まりは些細な失敗から
取り返しのつかないミス
それは、仕事で大きなミスをした日のことでした。
私は広告代理店で、クライアント企業の担当をしています。その日は、重要なプレゼンテーションの日でした。3ヶ月かけて準備してきた企画を、クライアントの役員陣の前で発表する、大事な場面です。
プレゼンテーションは順調に進みました。資料も完璧、説明もスムーズ。クライアントの反応も上々です。
「それでは、次のステップとして…」
と話し始めた時、私は気づきました。
「あれ?次に何を話すんだっけ?」
頭が真っ白になりました。念入りに準備してきたはずなのに、次の項目が思い出せません。資料を見ても、自分が何を説明しようとしていたのか、分かりません。
「すみません、少々お待ちください」
焦りながら資料をめくります。30秒、1分。会議室に気まずい沈黙が流れます。
上司が助け舟を出してくれて、何とかプレゼンテーションは続けられましたが、あの気まずい沈黙は、私の心に深く刻まれました。
「もっとちゃんと準備しておくべきだった」 「なぜ、あんな大事なことを忘れてしまったんだろう」
プレゼンテーション後、自分を責める気持ちでいっぱいでした。
原因は「情報の分散」
その日の夜、私は自分の仕事のやり方を見直しました。
スマホのメモアプリを開くと、プレゼンテーションに関するメモが5つ。 手帳にも、要点が書かれています。 パソコンのデスクトップには、「プレゼン_メモ.txt」というファイル。 プレゼン資料のスライドのノート欄にも、話すことが書いてあります。
情報が、バラバラに分散していました。
スマホ、手帳、パソコン、紙の資料。それぞれに、違う情報が書かれている。そして、肝心な時に、どこに何が書いてあるか、すぐに見つけられない。
「情報が多すぎて、逆に混乱している」
これが、私の物忘れの根本的な原因だと気づきました。
「一元化」への模索
「全ての情報を、一箇所にまとめたい」
でも、どうやって?
スマホのメモアプリに全部入れる?でも、スマホは充電が切れることもあるし、いざという時に開くのが面倒です。会議中にスマホをいじるのも、印象が良くありません。
手帳に全部書く?でも、手帳は大きくて重い。いつも持ち歩くには不便です。それに、分厚い手帳の中から、必要な情報をすぐに見つけるのは難しい。
ノートに書く?でも、ノートもかさばるし、後から見返すのが大変です。
「もっと、コンパクトで、すぐに見返せて、情報を整理しやすい方法はないだろうか」
そんなことを考えながら、ぼんやりとネットを見ていた時、ある記事が目に留まりました。
「情報カードを使った知識管理術」
研究者や作家が、昔から使っている方法だそうです。小さなカードに、一つの情報を書く。カードを分類し、整理し、必要な時に取り出す。
「これだ!」
と思いました。でも、情報カードって、どこで買えるんだろう?
翌日、仕事帰りにダイソーに立ち寄りました。

ダイソーでの発見
文具コーナーの宝探し
ダイソーの文具コーナーに行くと、様々なカードやカード関連商品がありました。
- 単語カード(小・中・大サイズ)
- 名刺サイズのカード(無地・罫線入り)
- インデックスカード
- カードケース
- カードリング
「カードリング?」
手に取ってみました。直径3センチほどの、金属製のリング。開閉できるようになっていて、カードに穴を開けて、このリングに通せば、複数のカードを束ねられる仕組みです。
パッケージには、「単語カードの整理に」「サンプル生地のまとめに」と書かれています。
「これ、使えるかもしれない」
単語カード(中サイズ)と、カードリング(2個入り)を購入しました。合計220円。
もし上手くいかなくても、220円なら諦めがつきます。
システム作りの始まり
家に帰り、早速カードを使ってみることにしました。
単語カードは、名刺よりも少し小さいサイズ。片手に収まるコンパクトなサイズです。枚数は30枚入り。
「まず、仕事で覚えておきたいことを書いてみよう」
一枚目のカードに、書きました。
「プロジェクトA:次回ミーティング 3月15日 14時 議題:予算確認」
二枚目には、
「クライアントB:担当者の好み → コーヒーブラック、猫好き、娘さん小学生」
三枚目には、
「今週中にやること:企画書完成、メール返信5件、請求書提出」
どんどん書いていきます。一つのカードに、一つの情報。シンプルに、簡潔に。
10枚ほど書いたところで、カードの左上に穴を開けました。パンチで穴を開けるのは、少し力が要りましたが、何とかできました。
そして、カードリングに通します。
「できた!」
手のひらサイズの、自分だけの情報カード集が完成しました。リングを開閉すれば、カードの追加や削除も簡単です。カードをめくれば、必要な情報がすぐに見つかります。
「これなら、いつでも持ち歩ける。いつでも見返せる」
期待が膨らみました。

最初の一週間
翌日から、このカードリングを常に持ち歩くことにしました。
ポケットにも入るサイズなので、ジャケットの内ポケットに入れています。取り出したい時に、すぐに取り出せます。
仕事中、何か覚えておきたいことがあれば、すぐにカードに書きます。会議で決まったこと、上司からの指示、クライアントからの要望。全てカードに記録します。
「あ、これ覚えておかなきゃ」
と思った瞬間に、ポケットからカードリングを取り出し、新しいカードに書く。書いたら、リングに追加する。この動作が、習慣になってきました。
一週間後、カードは20枚に増えていました。
そして、驚くべきことに、この一週間、仕事で重要なことを忘れることが、ほとんどありませんでした。
「あれ、何だっけ?」
と思った時、すぐにカードを見返せば、そこに答えがあります。脳で覚えておく必要がないのです。全てカードに書いてあるから。
「これは、使える」
カードリングが、私の「外部記憶装置」になりつつありました。

システムの進化
カテゴリー分けの導入
一ヶ月ほど使っていると、カードの枚数が50枚を超えました。
さすがに50枚ものカードを一つのリングにまとめると、目的のカードを探すのが大変です。
「カテゴリー分けをしよう」
ダイソーに行き、追加でカードリングを5個購入しました。そして、カードを以下のカテゴリーに分けました。
- 仕事・プロジェクト関連(赤いリング)
- クライアント情報(青いリング)
3. アイデア・メモ(緑のリング) 4. プライベート・予定(黄色いリング) 5. 学びたいこと・勉強(白いリング)
リングには、色を識別できるように、色違いのマスキングテープを巻きました。こうすれば、パッと見てどのカテゴリーか分かります。
カードも、カテゴリーごとに色分けしました。仕事関連は白、クライアント情報はピンク、アイデアは黄色。これも、ダイソーで色違いの単語カードを購入して対応しました。
こうして、私の「カードリング・システム」が、徐々に洗練されていきました。
インデックスカードの発見
二ヶ月目に、さらなる改良を加えました。
カテゴリー分けはしたものの、各リング内でもカードの枚数が増えてきて、探すのに時間がかかるようになってきたのです。
「インデックスがあれば便利なんだけど」
そう思って、またダイソーに行きました。すると、まさに理想的な商品を見つけました。
「仕切りカード」
少し厚手のカードで、上部に飛び出したタブがついています。本来はファイルの仕切りに使うものですが、これを適当なサイズに切れば、カードリングのインデックスとして使えます。
早速購入して、帰宅後にカスタマイズしました。
仕切りカードをカードサイズに切り、タブの部分に、項目名を書きます。
仕事カテゴリーなら:
- 進行中のプロジェクト
- 今週のタスク
- 連絡待ち事項
- 参考資料
こうして、各カテゴリー内でも、さらに細かく分類できるようになりました。
「これで完璧だ」
カードリングを開けば、インデックスで目的のセクションに飛び、必要な情報にすぐにアクセスできる。まるで、手のひらサイズのデータベースです。
デジタルとの使い分け
カードリングシステムを使い始めて3ヶ月。友人から質問されました。
「でも、スマホのメモアプリの方が便利じゃない?検索もできるし」
確かに、デジタルには利点があります。でも、アナログのカードリングにも、デジタルにはない利点があることに、私は気づいていました。
カードリングの利点:
- 即座に取り出せる – スマホを開いて、アプリを起動して、という手間がない
- 一覧性がある – カードをパラパラめくれば、全体が見渡せる
- 物理的な感覚 – 手で触れることで、記憶に残りやすい
- 充電不要 – バッテリー切れの心配がない
- 会議中でも使いやすい – スマホをいじっている印象を与えない
もちろん、デジタルも併用しています。長文のメモや、後で検索したい情報はスマホに。すぐにアクセスしたい情報、頻繁に見返す情報はカードに。
こうして、デジタルとアナログの良いとこどりができるようになりました。

人生が変わり始めた
仕事での信頼獲得
カードリングを使い始めて半年後、明らかな変化が現れました。
会議中、誰かが「前回のミーティングで、何を決めたんだっけ?」と聞いた時、私はすぐにカードリングを取り出して答えられます。
「前回は、予算を20%増額する方向で合意しました。ただし、最終決定は役員会の承認後、という条件付きです」
クライアントとの打ち合わせでも、相手の好みや家族構成、以前話した内容をすぐに思い出せます(正確には、カードに書いてあるので、思い出す必要すらありません)。
「前回、娘さんの運動会があるっておっしゃってましたよね。どうでした?」
こんな些細な会話が、信頼関係を築きます。
上司からも、評価されるようになりました。
「最近、君は仕事が正確になったね。以前は忘れっぽくて心配だったけど、今は安心して任せられる」
カードリング。たった110円のアイテムが、私の仕事の評価を変えてくれました。
プライベートでの変化
仕事だけでなく、プライベートでも変化がありました。
以前は、友人の誕生日を忘れたり、約束を忘れたりすることが多く、「冷たい人」「興味がない人」と思われることもありました。
でも、カードリングに友人の情報を書くようになってから、それがなくなりました。
- 友人Aの誕生日:4月12日(好きな花:チューリップ)
- 友人Bが最近始めた趣味:陶芸
- 友人Cの悩み:転職を考えている
こういう情報を記録しておくと、次に会った時、自然に話題にできます。
「そういえば、陶芸どう?何か作った?」 「転職の件、その後どう?」
友人たちは、自分のことを覚えていてくれることに、喜んでくれます。
「あなたって、ちゃんと人の話を聞いてくれるよね。覚えていてくれて嬉しい」
そう言われた時、少し複雑な気持ちになりました。本当は、私の記憶力が良いわけじゃなくて、カードに書いているだけなんだけど…。
でも、重要なのは「覚えている」という結果です。手段が何であれ、相手を大切に思っている気持ちは本物です。カードリングは、その気持ちを実現するための道具に過ぎません。
新しい趣味の誕生
カードリングを使っているうちに、予想外の趣味が生まれました。
「カードのカスタマイズ」です。
最初は、ダイソーの単語カードをそのまま使っていましたが、次第に「もっと自分好みにカスタマイズしたい」と思うようになりました。
マスキングテープで枠を作ったり、スタンプを押したり、色ペンでイラストを描いたり。機能的な情報カードが、少しずつ、私だけのオリジナルカードに進化していきました。
ダイソーには、カスタマイズに使える素材がたくさんあります。
- カラフルなマスキングテープ
- 小さなスタンプ
- シール
- 色ペン
- 装飾用のクリップ
これらを使って、カードをデコレーションする時間が、私の新しい楽しみになりました。
特にお気に入りは、重要なタスクカードに、小さな星のスタンプを押すこと。完了したら、金色のペンでチェックマークを入れる。この小さな達成感が、日々のモチベーションになっています。
Instagram で「#カードリング活用術」「#100均カード」というハッシュタグで投稿を始めたところ、同じようにカードリングを活用している人たちと繋がることができました。
みんな、それぞれ独自の使い方をしていて、とても参考になります。
- 読書記録をカードにまとめている人
- レシピをカードにしている人
- 目標達成のためのカードシステムを作っている人
- 子どもの成長記録をカードにしている人
100均のカードリングという、シンプルなアイテム。でも、使い方は無限大だと気づきました。

システムの洗練
一年後の私のシステム
カードリングを使い始めて一年。私のシステムは、かなり洗練されました。
現在、私が持ち歩いているのは、7つのカードリングです。
1. マスターリング(毎日持ち歩く)
- 今日のタスク
- 今週の重要事項
- 緊急連絡先
- よく使う情報
2. 仕事プロジェクトリング
- 進行中のプロジェクト詳細
- 各プロジェクトのタスク
- 締切と重要日程
3. クライアント情報リング
- 各クライアントの基本情報
- 好み・特徴
- 過去の会話内容
4. アイデアリング
- 仕事のアイデア
- プライベートでやりたいこと
- ふと思いついたこと
5. 学習リング
- 勉強中のトピック
- 覚えたい情報
- 参考資料のメモ
6. ライフログリング
- 日々の気づき
- 感謝したこと
- 印象的だった出来事
7. 将来の夢リング
- 中長期的な目標
- やりたいことリスト
- 人生で大切にしたい価値観
マスターリング以外は、必要に応じて持ち歩きます。全部を持ち歩くには重すぎるので、その日の予定に合わせて、必要なリングだけをバッグに入れます。
家には、専用の収納ボックスがあります。これもダイソーで購入した、仕切り付きのクリアケース。各リングが、きちんと整理されて収納されています。
